高橋知己まだ20代だったんだ。 あの森山威夫カルテットでの怒涛のプレイは・・・ いきつけのJAZZ喫茶「JOKE」でよくかかっていたのを聴いてその激しくも歌心のあるプレイに痺れていた。 はじめて高橋知己を観たのは、合歓ジャズインでのKYLIN BAND(清水靖晃のトラ)とセッションのステージだった。 その時ははじめての野外ライブを見にいって様々なステージを観て、やや地味な知己の演奏は酒に酔っていたせいもあるのか、あまり印象に残っていない。 それからしばらく、時がすぎてK原君と一緒に夜勤のバイトをしていた時のこと。 伝票をベルトコンベアーみたいな機械にいれて読み取らす単調な仕事。 夜7時から仕事がはじまるのだが、だいたい2時か3時には終わってしまう。 ただ朝の5時までは拘束時間で社内に残っていなければならなかったのだ。 食堂にグランドピアノが置いてありいつもそれをデタラメ弾きして時間をつぶしていた。 誰にでもできるチック・コリア、山下洋輔、セシル・テイラー、ドン・ピューレンなどなど。いまから思うとよく弦をきらなかったもんだと思う・・・ 学生アルバイトにしては夜勤という事もあってバイト料もまずまずだったと思う。 そのバイト料で発売日にかったのが、このレコード。 たしかK原君も買ったはず。 最初は森山カルテットでのような演奏を予想していたので、?マークが三つくらい頭に浮かんだのを正直に告白しておこう。 このアルバムが本当に心に沁みるようになったのは、社会にはいってからだと思う。 自分に自信をなくして落ち込んでいるとき、このアルバムの知己のサックスとエルビンのブラシが優しく慰めてくれ、元気付けてくれた。 男としての気概を奮い立たせてくれたのだ。 普段はジャズにたいしてもっとドライでクールな目でみている私であるが、このアルバムだけは例外。 今でも、年に何回か取り出して聴いている。 一曲目の「ALL GREEN」で知己の野太くて哀愁あふれるソプラノがメロディーを奏で出すともういけません。 酒がはいって少し感傷的になっているときなど、それだけでウルウル状態になってしまいます。 2曲目でのアップテンポ「HAVE YOU MET MR. JONES」での向井滋春の張り切りプレイ、続く知己のトレーンライクだが日本男児の気骨をも同時に感じさせるテナーサックスのソロに聞き惚れる。エルビンのプレイしながらの満面の笑みが感じ取れる。3曲目は再びクールダウン。日本的な情緒あるメロディーがフォービートにうまく乗っかって知己のテナーソロもイマジネーションがひろがっていく。 実際このレコーディングは、裏話によると難産だったようだ。 エルビンのリズム感との食い違い。 エルビンのリズムを聴こうとして、あわせようとするとよけい合わなくなり、グルーブしなくなる・・・ そりゃそうだろう、エルビンはエルビン時間の体内時計でリズムを刻んでいるのだから・・・ 最後はエルビンを聴かずに「セーノッ」と言う感じでテーマ演奏をした曲もあるらしい。 しかし、そんなことは取るに足らないサイドストーリーでこの作品の価値を落すものでも何でもない。 今、このアルバムの裏ジャケを眺めている。 エルビン・ジョーンズにしても納得のセッションになったことが、垣間見れる連続フォト。少し遠慮がちに応対している知己の表情が可笑しい。 80年の初夏に録音された日本の若手から中堅ジャズマンと偉大なエルビン・ジョーンズとの最後には一体となった充実した作品だと思う。 TOMOKI MEETS ELVIN/ANOTHER SOIL(DENON) 高橋知己(TS,SS)大口純一郎(P)川端民生(B) 望月英明(B)杉本喜代志(G)向井滋春(TB) ELVIN JONES(DS) 1980年6月23,24日 東京で録音 ジャンル別一覧
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